サイナスリフトについて

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サイナスリフトとは

サイナスリフトは、上顎の奥歯部分でインプラント治療を行う前に、骨の厚みを増やす手術のことです。上顎洞(じょうがくどう)という鼻の奥にある空洞の底部分を持ち上げて、そこに骨を作るスペースを確保する治療法です。

上顎の奥歯を失うと、その部分の骨は時間とともに薄くなっていきます。さらに、上顎洞という空洞が徐々に下方向に拡大するため、インプラントを安全に埋め込むために必要な骨の高さが不足してしまいます。

通常、インプラントを埋め込むためには最低でも10mm程度の骨の高さが必要とされていますが、上顎の奥歯部分では5mm程度しか骨が残っていないケースも珍しくありません。このような状況で無理にインプラントを入れると、上顎洞を突き抜けてしまう危険性があります。

サイナスリフトでは、上顎洞の底にある薄い膜(シュナイダー膜)を慎重に持ち上げ、できたスペースに人工骨や患者さん自身の骨を填入します。この骨が安定することで、十分な長さのインプラントを安全に埋め込むことが可能になります。

こんな方におすすめ

サイナスリフトは、特定の条件に当てはまる方に非常に有効な治療選択肢となります。

上顎の奥歯(小臼歯から大臼歯)を1本以上失っており、その部分の骨の高さが10mm未満の方が主な対象となります。歯を失ってから長期間が経過している場合、骨の吸収が進んでいることが多く、サイナスリフトが必要になるケースがよく見られます。

歯周病が原因で奥歯を失った方も適応となります。歯周病は歯を支える骨を破壊する病気のため、歯を失った時点で既に骨量が減少している場合があります。しっかりとした土台を作ってからインプラント治療を行うことで、長期的な成功が期待できます。

生まれつき上顎洞が大きい方や、慢性的な副鼻腔炎により上顎洞が拡大している方も対象となります。このような解剖学的な特徴により骨が薄い方でも、サイナスリフトにより十分なスペースを確保できます。

入れ歯の違和感や不安定さに悩まされている方で、しっかりと噛めるインプラント治療を希望される方にもおすすめです。特に、硬い食べ物を奥歯でしっかりと噛み砕きたい方や、食事の際の不快感から解放されたい方に適しています。

特徴

サイナスリフトには、他の骨造成手術とは異なる独特な特徴があります。

最も大きな特徴は、上顎洞という解剖学的な構造を利用して骨造成を行うことです。上顎洞は比較的大きな空洞のため、広範囲にわたって骨を作ることができ、複数本のインプラントを同時に計画することも可能です。この特徴により、効率的な治療計画を立てることができます。

手術方法には「ラテラルアプローチ」と「クレスタルアプローチ」の2つがあります。ラテラルアプローチは歯茎の側面から上顎洞にアプローチする方法で、広範囲の骨造成に適しています。一方、クレスタルアプローチは歯茎の上から直接アプローチする方法で、侵襲性が低く、比較的軽度な骨不足の場合に選択されます。

使用する骨材料も多様性があります。患者さん自身の骨(自家骨)、人工骨、異種骨(牛骨由来)、同種骨(人骨由来)など、症例に応じて最適な材料を選択できます。最近では安全性の高い人工骨が主流となっており、感染リスクを最小限に抑えながら良好な結果を得ることができます。

治癒期間の特徴として、上顎洞内は血流が豊富なため、骨の再生が促進されやすい環境にあります。ただし、下顎と比較すると骨質が軟らかいため、十分な治癒期間を確保することが重要です。

また、上顎洞炎(蓄膿症)の既往がある方でも、適切な前処置により治療を受けることが可能です。耳鼻咽喉科との連携により、安全で確実な治療を提供できます。

CT診断による精密な治療計画も大きな特徴です。三次元的な画像診断により、上顎洞の形態、残存骨量、周囲の解剖学的構造を詳細に把握し、個々の患者さんに最適化された治療を行うことができます。

メリット

サイナスリフトには数多くのメリットがあり、患者さんの生活の質を大幅に改善することができます。

最大のメリットは、これまでインプラント治療が不可能とされていた症例でも治療を受けられるようになることです。骨の高さが5mm以下という厳しい条件でも、サイナスリフトにより15mm以上の骨の高さを確保することが可能になります。

作られた骨は、時間をかけて患者さん自身の骨に置き換わっていくため、天然の歯と同様の安定性を得ることができます。人工的に作った骨であっても、最終的には生体親和性の高い自分の骨となるため、長期的な安定性が期待できます。この特性により、インプラントの寿命も大幅に延長されます。

複数本の歯を失っている場合でも、一度のサイナスリフトで広範囲の骨造成が可能です。効率的な治療により、治療期間の短縮と費用の節約につながります。また、左右同時に手術を行うことも可能で、患者さんの負担を軽減できます。

噛む力の大幅な改善も重要なメリットです。入れ歯では天然歯の約30%程度の噛む力しか回復できませんが、サイナスリフト後のインプラントでは80%以上の噛む力を回復することができます。これにより、硬い食べ物も安心して食べることができ、食事の楽しみを取り戻すことができます。

審美的な改善も見逃せないメリットです。失った歯の部分の頬がこけて見えることがありますが、インプラント治療により自然な顔貌を回復できます。また、話しやすさも改善され、発音が明瞭になることで、コミュニケーションに自信を持つことができます。

隣接する健康な歯を保護できることも大きな利点です。ブリッジ治療とは異なり、健康な歯を削る必要がないため、将来的な歯の問題を予防することができます。

デメリット

サイナスリフトにはいくつかのデメリットがあり、治療を検討する際には十分な理解が必要です。

最も大きなデメリットは治療期間の長さです。サイナスリフト後、骨が十分に形成されるまで4~6ヶ月程度の期間が必要で、その後インプラント埋入、さらに上部構造装着まで含めると、全体で8ヶ月から1年以上の期間がかかります。この長い治療期間中は、仮歯や入れ歯で過ごす必要があり、患者さんにとって負担となる場合があります。

費用面での負担も重要な検討事項です。通常のインプラント治療費に加えて、骨造成の費用が上乗せされるため、総額が高額になりがちです。保険適用外の自由診療のため、経済的な計画をしっかりと立てる必要があります。また、治療期間が長いため、通院回数も多くなり、時間的・経済的コストが増加します。

手術に伴うリスクと合併症の可能性もあります。最も注意すべきは上顎洞粘膜の穿孔で、これが起こると鼻血や鼻漏、慢性的な鼻づまりなどの症状が現れる可能性があります。また、感染や腫れ、痛み、神経損傷などの一般的な外科手術のリスクも存在します。

骨造成が期待通りに進まない場合もあります。患者さんの年齢、全身状態、生活習慣により骨の再生能力に差があり、十分な骨ができない可能性があります。特に糖尿病患者や喫煙者では、骨の再生が阻害されやすく、治療結果に影響を与える場合があります。

術後の制限事項も多く、患者さんの日常生活に影響を与えます。手術後は激しい運動や飲酒を控える必要があり、鼻をかむことも制限されます。

長期的なメンテナンスの重要性も理解しておく必要があります。サイナスリフト後のインプラントは、通常のインプラント以上に定期的な管理が必要で、怠ると骨吸収や上顎洞炎のリスクが高まります。生涯にわたる継続的なケアが必要となることを理解しておくことが大切です。

サイナスリフトの流れ

サイナスリフトの治療は、詳細な診査から始まり、段階的に慎重に進められます。

STEP1 初回相談・診査

まず問診により、失った歯の経緯、現在の症状、全身の健康状態、服用している薬剤などを詳しくお聞きします。口腔内検査では、残っている歯の状態、歯茎の健康状態、噛み合わせの確認を行います。この段階で、患者さんのご希望や不安についてもしっかりとお聞きし、治療に対する理解を深めていただきます。

STEP2 精密検査・CT撮影

CT撮影による精密検査を実施します。三次元画像により、残存骨の高さと幅、上顎洞の形態と大きさ、周囲の血管や神経の位置を正確に把握します。この情報をもとに、手術の詳細な計画を立てます。

STEP3 治療計画の説明・同意

検査結果をもとに、具体的な治療計画をご提案いたします。手術方法、使用する骨材料、治療期間、費用について詳しく説明し、患者さんにご理解とご同意をいただいてから治療を開始します。

STEP4 術前準備

口腔内の清掃、歯石除去、必要に応じて歯周病治療を行い、感染リスクを最小限に抑えます。また、術前の注意事項についてもしっかりと説明いたします。手術に向けて最適な口腔環境を整えます。

STEP5 サイナスリフト手術

手術当日は、まず十分な局所麻酔を行います。痛みを感じることなく、リラックスして手術を受けていただけます。手術時間は症例により異なりますが、通常1~2時間程度で完了します。

STEP6 術後管理・経過観察

手術後は止血を確認し、縫合を行います。術後の注意事項を説明し、抗生物質や痛み止めなどの薬剤を処方します。1週間後に抜糸、その後は月1回程度の間隔で治癒状況を確認します。

STEP7 骨形成期間

骨の形成期間は3~6ヶ月程度で、この間に填入した骨材料が患者さん自身の骨に置き換わっていきます。定期的な検診により骨の形成状況を確認し、CT撮影により十分な骨の形成を確認した後、次のステップに進みます。

STEP8 インプラント埋入手術

十分な骨の形成が確認できたら、インプラント埋入手術を行います。作られた骨にインプラント体を埋め込み、安定するまで3~6ヶ月の結合期間をおきます。

STEP9 人工歯の装着・完成

インプラントと骨がしっかりと結合したことを確認した後、最終的な人工歯を装着します。噛み合わせの調整を行い、自然で快適な噛み心地を実現します。